東京高等裁判所 昭和62年(行コ)52号 判決 1989年1月30日
控訴人 前橋税務署長
代理人 田口紀子 沖上照 ほか二名
被控訴人 亡森山重治郎訴訟承継人 森山重子 ほか七名
主文
原判決を取り消す。
被控訴人らの請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、原判決四枚目表九行目の「副う」を「沿う」と改め、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
1 控訴人
(一) 土地売買による譲渡所得の計上時期は、土地の引渡の時、すなわち一般の取引の実態から譲渡土地に対する現実の支配が移転する時を基準として定めるべきであり、仮に土地の所有権移転時期を基準にして定めるとしても、その移転時期は、代金の支払、所有権移転登記手続、土地の引渡等の外部的徴憑を伴う行為があつた時とすべきである。本件土地の譲渡所得の計上時期は、右のいずれの基準によつても、本件土地の残代金が支払われた昭和五一年七月一七日とすべく、本件土地の譲渡所得を昭和五一年の所得とした本件各処分は適法である。
(二) 被控訴人が本件各処分の課税年度を争うことは、信義則ないし禁反言の原則に照らし許されない。すなわち、
亡重治郎(訴訟被承継人)は、本件土地に係る所得税の申告を内容虚偽の持分売買契約書を作成し、昭和五一年の所得として申告した。控訴人は、右亡重治郎の申告を前提として、昭和五一年分について過少申告であるとして本件各処分をし、亡重治郎が持分譲渡として申告していた昭和五二年ないし昭和五四年については減額更正をした。亡重治郎は、原処分の調査時においても、本件土地は昭和五一年契約に基づき譲渡したと供述した。
亡重治郎は、本件処分に係る異議申立てにおいては、自己の申告が正しいとのみ主張し、審査請求においては、自己の申告が正しいと主張するほか、昭和四九年七月三一日に契約の効力が生じたと主張した。そして、本訴に至り、初めて昭和五〇年に本件土地の引渡をしたと主張し、昭和五九年七月一七日の期日に至り、昭和四九年契約書(甲第一五号証)を提出し、同五九年九月一八日の期日に至り、昭和四九年に契約されたと主張しはじめた。
以上の経緯の下では、被控訴人らが、亡重治郎がした申告による所得の計上時期が誤つているとして、本件更正に所得の計上時期を誤つた違法があると主張することは、自己が法律に基づき当然に負担すべき納税義務を免れんがための主張にほかならず、信義則ないし禁反言の原則に反し許されない。
(三) 亡重治郎は、昭和六一年七月三日に死亡し、被控訴人らが相続により亡重治郎の権利義務を承継した。
2 被控訴人
一 1の(一)は争う。仮に、所得の計上時期を引渡を基準にして定めるとしても、本件土地の引渡は、昭和五〇年三月三一日までに完了しているから、昭和五一年を課税年度とする本件各処分は違法である。
二 同(二)は争う。本件土地売買の契約日及び効力発生日は、昭和四九年七月三一日であり、物件の引渡は昭和五〇年三月三一日までに完了している。したがつて、被控訴人が本件譲渡所得の計上時期を昭和四九年七月三一日又は昭和五〇年三月三一日と主張することは、実体的真実に沿つたものであつて、信義則ないし禁反言の原則違反のそしりを受けるものではない。
三 同(三)の承継の事実は認める。
三 証拠関係 <略>
理由
一 請求の原因1の事実並びに抗弁1の総合課税による総所得金額、同3の所得控除額及び被控訴人らが亡重治郎の権利義務を承継したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 抗弁2の分離課税による長期譲渡所得金額、同4の本件更正に係る納付すべき税額及び同5の重加算税について判断する。
1 まず、本件土地の売買の経緯について判断する。
本件土地について、亡重治郎と田源石灰との間で昭和四九年六月一日に売買予約のなされたこと、同年七月三一日金一〇〇〇万円が支払われたこと、控訴人主張の仮登記及び各持分移転登記のなされたことは当事者間に争いがない。
右争いのない事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 亡重治郎は本件土地を所有していた者であり、田源石灰は栃木県栃木市に本店を有し採石業等を営む会社である。
(二) 亡重治郎と田源石灰は、昭和四九年六月一日、採石用地に使用するため、地上の立木を除く本件土地について、次の内容の売買予約契約をし、その旨の覚書(<証拠略>)を作成した。
<1> 代金 七〇〇〇万円
<2> 売買契約の時期 昭和四九年七月三一日まで
<3> 代金支払方法 昭和四九年七月三一日(契約時)に一〇〇〇万円、昭和五一年七月三一日残代金六〇〇〇万円
<4> 登記手続 一〇〇〇万円の支払と同時に所有権移転の仮登記手続を行い、代金完済時に本登記手続を行う。
(三) 亡重治郎と田源石灰は、昭和四九年七月三一日、前記一の売買予約に基づき、地上立木を除いた本件土地につき、次の内容の売買契約をし、その旨の契約書(<証拠略>)を作成し、同日、一〇〇〇万円の授受と<3>の仮登記手続をした。
<1> 代金 七〇〇〇万円
<2> 代金支払方法 契約締結時に 一〇〇〇万円、残代金六〇〇〇万円については昭和五一年九月三〇日から昭和五三年六月三〇日まで八回に分割して三か月ごとに七五〇万円ずつ支払う。右の支払条件に違背した場合には契約解除もある。
<3> 登記手続 昭和四九年七月三一日一〇〇〇万円支払時に所有権移転仮登記手続を、昭和五一年七月三一日に所有権移転本登記手続を、それぞれ行う。
<4> 地上立木の伐採期限 昭和五一年七月三一日とし、亡重治郎において右期限までに履行できない場合は、立木伐採権を喪失する。
(四) 亡重治郎は、昭和四九年七月三日、宮石木材有限会社に対し、本件土地上の立木を、代金二六〇〇万円、伐採期限を昭和五〇年一二月三一日までとして売却し、同社は、同四九年八月ころから伐採を始め、同五〇年三月三一日までにはその伐採、搬出を完了した。
(五) 亡重治郎と田源石灰は、昭和五一年一月二〇日、前記売買契約書の内容中、残金の支払方法と登記手続を次のとおり変更することを合意し、その旨の契約書(<証拠略>はその写し。)を作成した。
<1> 残代金の支払方法 残代金六〇〇〇万円については昭和五一年九月三〇日から昭和五四年六月三〇日までの間の毎年三、六、九及び一二月の各月末日に五〇〇万円ずつ一二回に分割して支払う。
<2> 登記手続 昭和五四年六月三〇日の代金完済時に所有権移転登記手続を行う。
(六) 田源石灰は、本件土地売買の残代金六〇〇〇万円については、亡重治郎の紹介により、昭和五一年七月一七日ころ、大栄信用金庫から借入することとしたが、同金庫との間に継続的な取引がなかつたため、亡重治郎が連帯債務者となつて借入し、これを同日、右残代金として亡重治郎に支払つた(現実には同金庫から亡重治郎に支払われた。)。亡重治郎は、右受領金員の一部を同金庫に対する自己の債務の弁済に充てあるいは同金庫への預金とした。
(七) 亡重治郎は、本件土地を昭和五一年から六年間に分割しその持分を譲渡したとして、その所得の一部を昭和五一年分所得として控訴人に申告した。
以上のとおり認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 ところで、資産の譲渡に基づく収入金額は、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転した日の属する年分の総収入金額に計上すべきものである(もつとも、所得税法の採用するいわゆる権利確定主義は、いまだ現実収入の時以前においても所得が実現したものとして課税できることを認めたものであつて、現実収入後の計上を認めるものではないから、右の計上時期は、譲渡代金完済時より遅れることはない。)
そして、前示1の事実によれば、本件土地売買契約は、昭和四九年七月三一日に成立したものであるが、右の契約時においては、本件土地売買契約の請求権保全の仮登記及び一〇〇〇万円の手付金の支払が行われたのみで、土地の引渡、所有権移転登記手続、代金支払はすべて後日に持ち越され、しかも代金不払いの場合には契約解除されることも特約された上、亡重治郎もそれによる所得を当該年の譲渡所得として申告もしなかつたのであるから、右契約において本件土地の所有権が移転するのは、右の契約時ではなく、その履行行為である土地の引渡、所有権移転登記手続、代金支払のいずれかがされた時とする黙示の特約がされたものと認めるのが相当である。しかして、前示のとおり、本件土地の売買代金は昭和五一年七月一七日ころに完済され、そのころ本件土地の引渡がされたものと認められる(この点は後に被控訴人らのこの点についての主張に対する判断で述べる。)から、そのころ本件土地の所有権が移転し、その譲渡による所得の実現があつたものというべきであり、したがつて、右の所得は、昭和五一年分の所得に計上すべきものである。
被控訴人らは、本件土地売買契約は、昭和五二年二月ころ、昭和五一年から同五六年までの持分一部移転の分割譲渡に変更されたと主張するが、右の主張が採用できないことは、原判決二三枚目表三行目の「その提出にかかる」を削除し、同行目の「号証」の次に、「、<証拠略>」を、同七行目の「いる」の次に「し、登記手続(<証拠略>)もこれに沿う」を、同八行目の「他方、」の次に「<証拠略>、」を各加えるほかは、原判決二二枚目裏九行目の「原告」から同二三枚目裏七行目末尾までと同一であるからこれをここに引用する。また、被控訴人らは、本件土地代金が原判決別紙四記載の日時に分割して支払われたと主張するが、右主張が採用できないことは、原判決一七枚目表六行目の「その提出にかかる」を削除し、同行目の「号証」の次に「、<証拠略>」を加え、同裏三行目の「当事者の主観的意図はともかく、」を削除するほかは、同判決一六枚目裏七行目の「原告」から同一七枚目裏五行目末尾までと同一であるから、これをここに引用する。また、被控訴人らは、本件土地上の立木の伐採が昭和五〇年三月三一日までに完了しているから、遅くともそのころまでには本件土地の引渡も完了していると主張するので以下この点について判断するに、本件土地上の立木についての亡重治郎と田源石灰との間の取り決めについては、原判決一九枚目表三行目の「証人」から同四行目のの「認められる」までを「前掲」と改めるほかは、原判決一八枚目裏一〇行目の「前掲」から同二一枚目表六行目末尾までと同一であるからこれをここに引用し、右の事実に前示1の事実及び<証拠略>を併せ考えると、本件土地引渡期日について特段の定めはなかつたこと、本件土地売買契約において、田源石灰が本件土地を使用する必要があるとして使用の申し込みをした場合に亡重治郎がこれを拒否できないし、買主が必要とする証明書等の提供に売主が協力すべきこととされていたものの、田源石灰が本件土地を購入した目的は本件土地から安山石を採石することにあるが、右土地には立木が存し、この立木は本件土地売買の対象から除外されていたのであるから、田源石灰としては、右の立木が伐採されない限り、売買の目的を達しないこと、昭和四九年七月三一日の契約によると、右立木の伐採期限は昭和五一年七月三一日とされ、右期限までに右の伐採がされない場合は売主の立木伐採権は喪失することと定められていたこと、しかるところ昭和五〇年三月三一日までには亡重治郎において立木を伐採、搬出して本件土地を引渡しうる状態にしたこと、田源石灰が土地の引渡を受け採石をすれば土地が変貌すること、亡重治郎は代金の支払を受けない間は本件土地を引き渡す意思がなかつたこと土地売買において代金支払と土地引渡、所有権移転登記手続又はそのいずれかは同時に履行されるのが通例であること、同五一年七月一七日ころ本件土地売買代金が完済されたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はなく、これらの事実からすれば、本件土地は、右売買代金が支払われた昭和五一年七月一七日ころ田源石灰に引き渡されたものと認めるのが相当であり、被控訴人らの右主張は採用できない。
3 そうすると、本件土地の売買による所得は、昭和五一年の所得として計上すべきであり、その譲渡価額は七〇〇〇万円であり、右の取得費は昭和五四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法三一条の三第一項により三五〇万円であり、また、特別控除額は租税特別措置法三一条二項により一〇〇万円であり、これによる長期譲渡所得金額は六五五〇万円となり、これと同旨の本件更正は適法である。
4 次に本件賦課決定の適否について判断する。
前示1、2の事実に<証拠略>によると、亡重治郎は、本件土地売買については、既に代金も完済され、土地の引渡も完了しているのに、昭和五二年三月ころ、累進税率による税負担の一部を免れるため、本件土地を六年間にわたつて分割して譲渡する旨の仮装の売買契約書六通を作成し、所有権移転登記もこれに併せて数回に分け、これに基づき昭和五一年分の確定申告書を提出したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はなく、右行為は、国税通則法六八条一項に該当する。その重加算税の額に、本件売買代金から亡重治郎が申告した額を控除した金額に対応する税額二〇〇七万四三〇〇円の一〇〇分の三〇の割合を乗じた額であり、これと同旨の本件賦課決定は適法である。
三 以上のとおり、本件各処分はいずれも適法であり、被控訴人らの請求は理由がない。
よつて、これと異なる原判決を取消し、被控訴人らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する
(裁判官 鈴木弘 稲葉威雄 筧康生)
【参考】第一審(前橋地裁昭和五八年(行ウ)第一号 昭和六二年四月二八日判決)
主文
一 被告が昭和五六年二月一六日付けでした原告の昭和五一年分所得税の更正処分のうち課税長期譲渡所得金額一七一〇万七〇〇〇円、納付すべき所得税額三四二万一四〇〇円を超える部分及び昭和五六年七月二四日付重加算税賦課決定処分(但し、昭和五六年二月一六日付け賦課決定を変更したもの)をいずれも取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 本件各処分の存在等
原告の昭和五一年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の更正並びに重加算税の賦課決定及びその変更決定(以下、右更正を「本件更正」、右変更後の重加算税賦課決定を「本件賦課決定」、両者をあわせて「本件各処分」とそれぞれいう。)、被告がした異議決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別紙一記載のとおりである。
2 本件各処分の違法事由
しかしながら、被告がした本件更正のうち、原告の確定申告にかかる所得税額を超える部分は、その税額算出の基礎となるべき当該年分の所得金額を過大に認定したものであるから違法であり、したがつて、また、本件更正を前提としてされた本件賦課決定も違法である。
3 よつて、原告は被告に対し本件各処分の取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
請求の原因1の事実は認め、同2の主張は争う。
三 抗弁
原告の昭和五一年分の課税されるべき長期譲渡所得金額は六四六〇万七〇〇〇円であり、したがつて、その範囲内でされた本件更正及びこれを前提とする本件賦課決定に違法はない。
すなわち、原告の本件各処分にかかわる所得金額及び税額等の明細は別紙一の「更正及び加算税賦課決定」並びに「加算税賦課決定(変更する決定)」の各欄に記載のとおりであり、その算出根拠は次のとおりである。
1 総合課税によ総る所得金額 三一万三一〇〇円
原告の農業所得三一万三一〇〇円のみであり、これ以外に所得はない。
2 分離課税による長期譲渡所得金額 六五五〇万円
(一) 収入金額 七〇〇〇万円
原告はその所有する別紙二物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、訴外田源石灰工業株式会社(以下「田源石灰」という。)との間で、昭和四九年六月一日、これを代金七〇〇〇万円にて売り渡す旨の予約をし、同年七月三一日、田源石灰から代金の一部として一〇〇〇万円を受領するとともに同年八月三日所有権移転請求権仮登記手続をなした。そして、原告は昭和五一年一月二〇日田源石灰との間で本件土地につき右予約に基づき売買契約を締結し、同年七月一七日、田源石灰から残代金六〇〇〇万円を受領した。なお原告は、同月三一日以降は本件土地を自由に使用収益できる状態となつていた。しかし、原告は税負担の一部を免れるため右一括譲渡に副う所有権移転登記手続をとらず、持分の売買がなされた如く仮装の契約書を作成して、昭和五二年より昭和五七年にかけて持分移転登記手続をなしたものである。
後記原告の主張1(二)の売買契約は、仮に認められるとしても、その後原告と田源石灰の間の合意で破棄されて存在しないものとされ、昭和五一年一月二〇日に至り正式の売買契約が締結されたものである。
これらからすると、本件土地の譲渡所得を収入として計上すべき時期、すなわち、現実の支配の移転があつた時期は昭和五一年であり、その収入金額は七〇〇〇万円となる。
(二) 取得費 三五〇万円
右金額は分離課税による長期譲渡所得の金額の計算上、収入金額から控除する取得費として、昭和五四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法三一条の三第一項により、当該収入金額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算したものである。
(三) 特別控除費 一〇〇万円
右金額は租税特別措置法三一条二項に規定する特別控除額である。
(四) 以上から、分離課税による長期譲渡所得金額は、(一)収入金額七〇〇〇万円から(二)取得費三五〇万円及び(三)特別控除額一〇〇万円を控除した六五五〇万円となる。
3 所得控除 一二〇万五九〇〇円
(一) 社会保険料控除額一六万五九〇〇円(二)扶養控除額七八万円(三)基礎控除額二六万円の合計である。
4 本件更正にかかる納付すべき税額二三四九万五七〇〇円
昭和五五年法律第九号による改正前の租税特別措置法三一条一項二号により算出したものであるが、その算式及び算出過程の詳細は別紙三記載のとおりである。
5 重加算税 六〇二万二二〇〇円
原告は、昭和五一年に本件土地を譲渡代金額七〇〇〇万円で田源石灰に一括して譲渡したにもかかわらず、税負担の一部を免れるため、昭和五二年三月ころ、本件土地を六年間にわたり毎年分割して譲渡する旨の仮装の売買契約書合計六通を作成し、かつ、本件土地の所有権移転登記もこれに合わせて数回に分けて行つた。これは、本件土地売買について事実を仮装したものというべきであり、原告は、右仮装した事実に基づいて昭和五一年分の確定申告書を提出したものである。したがつて、右事実によれば国税通則法六八条一項に基づき原告に賦課されるべき重加算税は、右仮装した所得金額四七五〇万円(前記2の分離課税による長期譲渡所得金額六五五〇万円から原告の確定申告における当該金額一八〇〇万円を控除した金額)に対応する納付すべき税額二〇〇七万四三〇〇円(前記3の本件更正にかかる納付すべき税額二三四九万五七〇〇円から原告の確定申告における当該税金三四二万一四〇〇円を控除した金額)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて算出される。
四 抗弁に対する認否
抗弁冒頭部分の主張は争う。同1及び3の各事実は認める。
同2(一)の事実中昭和四九年六月一日売買予約のなされたこと、同年七月三一日一〇〇〇万円支払われたこと並びに被告主張の仮登記及び各持分移転登記のなされたことを認め、その余は否認する。右事実を前提とする同2(二)ないし(四)並びに同4及び5の主張は争う。
五 原告の主張
1 本件土地の売買契約の内容
(一) 原告は昭和四九年六月一日、田源石灰との間で本件土地につき、その地上立木を除き、代金七〇〇〇万円でこれを売り渡す旨の売買契約の予約をした。
(二) 原告と田源石灰は昭和四九年七月三一日、右売買予約に基づき本件土地につきその地上立木を除き、次の内容の売買契約を締結した。
(1) 代金 七〇〇〇万円
(2) 代金支払方法 契約締結時たる昭和四九年七月三一日に一〇〇〇万円、残代金六〇〇〇万円については昭和五一年九月三〇日から昭和五三年六月三〇日まで八回に分割し七五〇万円ずつ支払う。
(3) 登記手続 昭和四九年七月三一日一〇〇〇万円支払時に所有権移転仮登記手続を、昭和五一年六月三〇日に所有権移転本登記手続をそれぞれ行う。
(4) 地上立木の伐採期限 昭和五一年七月末日
(5) 本件土地使用について 買主において本件土地を使用する必要があるときは、売主はこれを承諾すること。
(三) 原告と田源石灰は昭和五一年一月二〇日、本件土地の売買契約の内容を次のとおり変更することに合意した。
(1) 残代金の支払方法 残代金六〇〇〇万円については、昭和五一年九月三〇日から昭和五四年六月三〇日までの間の毎年三、六、九及び一二月の各月末に五〇〇万円ずつ一二回に分割して支払う。
(2) 登記手続 昭和五四年六月三〇日の代金完済時に所有権移転登記手続を行う。
(四) 原告と田源石灰は昭和五一年七月ころ、本件土地の売買残代金六〇〇〇万円の支払の方法について次のとおり合意した。
すなわち、(1)原告と田源石灰は、本件土地を担保として、訴外大栄信用金庫(以下「大栄信金」という。)から連帯して六〇〇〇万円を借り受け、原告が右六〇〇〇万円を本件土地売買の契約保証金として受領する。(2)右借入金は田源石灰がその金額を大栄信金に分割して弁済することとし、この弁済がなされたつど、これを田源石灰から原告に対する右売買残代金の支払があつたものとしてこれを決済する。
(五) 原告と田源石灰は昭和五二年二月ころ、前記(三)のとおり変更された売買契約をさらに次のとおり変更した。
(1) 本件土地を一括譲渡ではなく、昭和五一年から昭和五六年まで六年間にわたる持分一部移転の分割譲渡の売買とする(昭和五一年においては代金二〇〇〇万円、持分七分の二移転)。
(2) 代金支払方法及び登記手続
代金支払方法は前記(四)のとおりとし、登記手続については前記(四)の代金支払方法にこれを合わせ、分割金支払のつどそれに相応する持分移転の登記手続をする。
2 売買契約に基づく債務の履行状況
(一) 代金支払
(1) 原告は昭和四九年七月三一日、田源石灰から一〇〇〇万円を受領した。
(2) 原告は田源石灰から昭和五一年より昭和五六年まで別紙四記載のとおり代金合計六〇〇〇万円を受領した。
(二) 登記手続
原告と田源石灰は本件土地につき前橋地方法務局昭和四九年八月三日受付第二五六四二号所有権移転仮登記を経由し、その後、昭和五二年から昭和五七年まで前後六回にわたつて持分一部移転の登記を経由した。
(三) 土地引渡
原告は昭和五〇年三月三一日までに立木の伐採、搬出を完了して、本件土地を田源石灰に引き渡した。
3 本件処分の違法性
(一) 前記1(五)のとおり、原告と田源石灰は本件土地につき最終的には持分一部移転の分割売買契約を締結しており、昭和五一年においてはその収入金額は二〇〇〇万円であつたにもかかわらず、被告は本件土地の売買は一括売買であり右収入金額は七〇〇〇万円であると誤つて認定し、これを前提に本件各処分を行つたものであるから同処分は違法である。
(二) 仮に、右が一括売買であつたとしても、原告は田源石灰に対し、昭和四九年七月三一日本件土地を売渡し、昭和五〇年三月三一日本件土地を引渡し、これによつてその所有権は移転しているから、本件土地の譲渡所得七〇〇〇万円の収入金額の権利確定時期は昭和五〇年であるにもかかわらず、被告は右収入金額七〇〇〇万円の計上時期は昭和五一年であると誤つて認定し、これを前提に本件各処分を行つたものであるから同処分は違法である。
第三証拠 <略>
理由
第一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
第二 原告は、抗弁1の総合課税による総所得金額と同3の所得控除はこれを争わず、同2の昭和五一年度の分離課税による長期譲渡所得金額と同5の重加算税を争うので、この点について判断する。
一 所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し、課税を行うこととしている。そして、同法三六条が、右期間中の所得金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を、「その年において収入すべき金額とする」と定め、「収入した金額とする」としていないことから考えると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があつたものとして、右権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される(最判昭和四九年三月八日集二八・二・一八六参照)。
ところで、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきである。(最判昭和四七年一二月二六日集二六・一〇・二〇八三)。したがつて、資産の譲渡によつて発生する譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期は、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であると解すべきものである。(最判昭和四〇年九月二四日集一九・六・一六八八)。そして、売主の所有に属する特定物を目的とする売買においては、特にその所有権の移転が将来なされるべき約旨にでたものでないかぎり、買主に対し直ちに所有権移転の効力を生ずるものと解するのを相当とするのであるから(最判昭和三三年六月二〇日集一二・一〇・一五八五)、売主所有の土地を目的とする売買によつて発生する譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期は、原則として、売買契約が成立した時ということになるのである。
二 そこで、本件土地の売買契約の成立時期について考える。
1 売買契約書の作成
本件土地について、原告と田源石灰との間で昭和四九年六月一日売買予約のなされたこと、同年七月三一日一〇〇〇万円が支払われたこと並びに被告主張の仮登記及び各持分移転登記のなされたことは当事者間に争いがない。
右争いのない事実に、<証拠略>によれば次の事実が認められる。
(1) 原告は本件土地を所有していた者であり、田源石灰は栃木県栃木市に本店を有し採石業等を営む会社である。
(2) 田源石灰は本件土地を採掘する必要があり、これを所有する原告と昭和四六年頃から交渉していたところ、原告と田源石灰は昭和四九年六月一日、本件土地につきその地上の立木を除き、次の内容にて売買契約の予約をし、その旨の覚書(<証拠略>はその写し。)を作成した。
<1> 代金 七〇〇〇万円
<2> 予約完結の意思表示をするについての期限と条件
昭和四九年七月三一日までに一〇〇〇万円を支払うこと
<3> 代金支払方法 昭和四九年七月三一日に一〇〇〇万円、昭和五一年七月三一日残代金六〇〇〇万円
<4> 登記手続 一〇〇〇万円の支払と同時に所有権移転の仮登記手続を行い、代金完済時に本登記手続を行う。
(3) 原告と田源石灰は昭和四九年七月三一日、前記売買予約に基づき大栄信金で、本件土地につきその地上立木を除き、次の内容の売買契約書(<証拠略>)を作成した。
<1> 代金 七〇〇〇万円
<2> 代金支払方法 契約締結時たる昭和四九年七月三一日に一〇〇〇万円、残代金六〇〇〇万円については昭和五一年九月三〇日から昭和五三年六月三〇日まで八回に分割して三ヵ月毎に七五〇万円ずつ支払う。ただし、売買契約書の右記載とは別に、田源石灰と原告が共同で大栄信金から六〇〇〇万円を借り、これを原告が受領すること、田源石灰は、右借入金を契約書記載の分割払いの期日、金額で、大栄信金に返済することが、合意されていた。
<3> 登記手続 昭和四九年七月三一日一〇〇〇万円支払時に所有権移転仮登記手続を、昭和五一年七月三一日に所有権移転本登記手続を、それぞれ行う。
<4> 地上立木の伐採期限 昭和五一年七月末日
<5> 使用権に関する合意 本契約成立後田源石灰が本件土地を使用する必要が生じ申し入れをなした時は、原告はこれを承諾するものとする。
(4) 田源石灰は、原告との土地売買の交渉が迅速に進まなかつたため、これと並行して、本件土地の東側に隣接する国有林について、採掘の認可や保安林の解除などを申請していたが、昭和四七年七月頃には、群馬県知事の採掘認可予定書を添付して保安林解除申請書を提出できる段階になつたので、国有林の採掘に希望を持ち、昭和四九年七月三一日の契約書作成の当時は、国有林の採掘が可能になれば、本件土地を搬出用の道路敷や採石の一時堆積場として使用することを予定しており、立木の伐採が終れば本件土地を使用できるものと考えていた。
(5) 原告と田源石灰は、前記売買契約書で定めた、七五〇万円ずつの大栄信金に対する返済は資金繰り上困難であるから、金額を変更して欲しいという、田源石灰の申出に基づき、昭和五一年一月二〇日、前記売買契約書の内容中、残金の支払方法と登記手続を次のとおり変更することを合意し、右変更した内容にもとづき大栄信金で、改めて土地売買契約証(<証拠略>はその写し。)を作成した。
<1> 残代金の支払方法 残代金六〇〇〇万円については昭和五一年九月三〇日から昭和五四年六月三〇日までの間の毎年三、六、九、及び一二月の各月末日に五〇〇万円ずつ一二回に分割して支払う。
<2> 登記手続 昭和五四年六月三〇日の代金完済時に所有権移転登記手続を行う。
2 代金支払
(一) <証拠略>によれば次の事実が認められる。
(1) 田源石灰は昭和四九年七月三一日、原告に対し、本件土地売買代金の一部として一〇〇〇万円を支払つた。
(2) 残代金六〇〇〇万円について、田源石灰は自己資金がなくこれを大栄信金から借入れて原告に支払うこととしたが、田源石灰と大栄信金とはこれまで取引が浅かつたことなどから、本件土地の売主である原告が右借入れにつき保証の意味で連帯債務者となることとなつた。その結果、田源石灰と原告は連帯債務者として昭和五一年七月一七日、大栄信金との間で六〇〇〇万円の金銭消費貸借契約を締結した。そして、同日、大栄信金本店から同金庫大間々支店の原告名義普通預金口座へ一八八万六三一八円、同金庫本店の原告名義の普通預金口座へ一〇〇〇万円、定期預金口座へ四〇〇〇万円それぞれ入金されたほか、原告が同金庫から借り入れていた二〇五万円及び六〇〇万円の返済金ないしその延滞利息六万三六八二円について弁済充当の処理がされて、残代金六〇〇〇万円が原告に対し支払われた。
以上のとおり認められる。
(二) 原告は、大栄信金から原告に支払われた六〇〇〇万円は契約保証金であり、その後債務者である田源石灰は別紙四記載のとおり大栄信金に対しこれを分割弁済したのであるが、これに先立ち、原告と田源石灰との間では、田源石灰が大栄信金に対し右のように分割弁済するつど、これを原告に対する残代金の支払があつたものとみなして本件土地代金債務を決済する旨の合意があるから、本件土地の残代金六〇〇〇万円は昭和五一年七月一七日一括して支払われたものではなく、別紙四記載の日時に分割して支払われたものである旨主張し、<証拠略>にはこれに沿う趣旨の供述及び記載部分がある。しかしながら、まず原告の主張する契約保証金の趣旨自体が必ずしも明らかでないばかりか、前期認定のとおり、右借入れに際して原告は実質上保証人であつたものであることに加え、大栄信金から原告に対し六〇〇〇万円が支払われるに際しては、その一部は原告個人の債務弁済に充てられ、あるいは原告に対し果実を生じる預金とされていることなどからすれば、当事者の主観的意図はともかく、前掲各証拠の客観的合理的判断から導かれる残代金一括弁済の認定を動かすことはできない。
3 登記手続
<証拠略>によれば次の事実が認められる。
(一) 原告と田源石灰は、本件土地につき、前橋地方法務局昭和四九年八月三日受付第二五六四二号にて昭和四九年七月三一日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由した。
(二) 原告と田源石灰は、前期認定のとおり、昭和四九年七月三一日には昭和五一年七月三一日に所有権移転本登記手続を行う旨合意し、これを同年一月二〇日に昭和五四年六月三〇日と変更する旨合意していたものであるが、後記認定のとおり昭和五二年二月頃に至つて持分売買契約を仮装することを合意し、これに沿つて本件土地につき次のとおり各持分一部移転登記を経由した。<1>前橋地方法務局昭和五二年四月二一日受付第一四四二二号、原因昭和四九年七月三一日売買(持分七分の二)、<2>同法務局昭和五三年八月四日受付第三〇九五四号、原因昭和五三年三月三一日売買(持分七分の一)、<3>同法務局昭和五四年四月二六日受付第一五〇四二号、原因昭和五四年四月一二日売買(持分七分の一)、<4>同法務局昭和五五年九月八日受付第三三一五二号、原因昭和五五年四月一二日売買(持分七分の一)、<5>同法務局昭和五六年二月二四日受付第六六六八号、原因昭和五六年二月一〇日売買(持分七分の一)、<6>同法務局昭和五七年一月二七日受付第二八三四号、原因昭和五七年一月一一日売買(持分七分の一)
4 土地引渡
(一) <証拠略>によれは、次の事実が認められる。
(1) 田源石灰は、採石業者であつて、本件土地購入の目的は本件土地から安山岩を採石することにあつた。
(2) 本件土地は保安林の指定を受けていたため、田源石灰が本件土地を買い受けてこれを現実に採石事業に供するについては、保安林指定解除を受けるなど森林法所定の手続が必要であつた。
(3) 原告と田源石灰は昭和四九年六月一日、本件土地の売買予約をするに際し、売買対象物件として本件土地上の立木を含まないこと及び右予約後田源石灰が本件土地の一部を使用できることを合意した。
(4) 前記昭和四九年七月三一日付けの売買契約に際しては、契約書(<証拠略>)において、売買物件として立木は含まない旨明記されるとともに、「使用権に関する合意事項」として、「本契約成立後田源石灰が本件土地を使用する必要が生じ申し入れをなしたる時は原告はこれを承諾するものとする。また、仮登記期間内に於て、原告は諸官庁等の手続などに関して、必要とする諸証明書及び認印写し等を必要とする場合は即時提供するなど田源石灰に対する協力を惜しまないものとする。」と、「立木の伐採等に関する事項」として、「立木は本物件の売買に含まれず原告の権利に属するものであるが、原告は可及的速かに全量伐採するよう努めるものとし、昭和五一年七月末日までには完全にこれを履行し些かも田源石灰の事業遂行に支障なき様にするものとする。若し、この約定が不履行となりたる場合は、その権利を喪失するも異議なきものとする。又その伐採権が第三者に移譲された場合と雖も、最終の責任は原告が負うものとする。」と合意された。
(5) 他方、原告は昭和四九年七月三日、群馬県高崎市所在の訴外宮石木材有限会社(代表取締役宮石源松)との間で本件土地上の杉、檜などの立木約五〇〇〇本につき、代金二六〇〇万円、立木の引取期間は昭和五〇年一二月末日との条件で売買契約を締結し、その旨の立木売買契約書(<証拠略>はその写し)を作成した。
(6) 本件土地は保安林であるため、立木伐採に必要な手続として、原告の申請に基づき、東部林業事務所から昭和四九年七月三〇日付けにて同日から昭和五〇年三月三一日までを伐採許可期間とする伐採許可決定通知がなされた。
(7) 宮石源松は右売買契約に基づき昭和四九年八月ころから本件土地に入つて地上の杉、檜などの立木の伐採作業を開始し、右伐採許可期間である昭和五〇年三月末日までに伐採及び搬出をすべて完了した。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 右の事実及び前記1認定の事実によれば、昭和四九年七月三一日の売買契約書において、買主たる田源石灰が本件土地を使用する必要が生じて原告に申入れをした場合には、売主たる原告はこれを承諾しなければならず、拒否することはできないこと、買主が必要とする証明書等については、原告は即時提供しなければならないこと、また、立木については、昭和五一年七月までの出来るだけ早い時期に伐採し、田源石灰の事業の妨げとならないようにすることが定められており、他に本件土地の引渡に関する約定はないこと、田源石灰は立木の伐採が終れば本件土地を使用できるものと考えていたこと、が認められ、これによれば原告も暗黙の中に田源石灰の意向を了解していたものと推認されるから、右売買契約書においては、原告が伐採許可を得た上で立木の伐採、搬出を完了した時点をもつて、若しそれがなければ昭和五一年七月末日をもつて、本件土地の引渡時期とすることを合意したものと解される。そして、現実にも、本件土地上の立木は昭和五〇年三月末日までに伐採搬出され、以後、本件土地は田源石灰が使用、収益できる状況にあつたと認められるから、本件土地は右伐採、搬出の完了の時に引渡されたものと認めるのが相当である。<証拠略>中には、田源石灰が大栄信金に対する借入金を完済するまでは、引渡がなされない旨を述べる部分があるが、前記(一)掲記の証拠に照らして措信できない。
三1 以上によれば、本件土地については、原告と田源石灰との間に、昭和四九年七月三一日に売買契約書が作成され、同日売買代金の内金一〇〇〇万円が支払われているのであるから、同日を以て本件土地の売買契約が成立したものと言うべきであり、所有権移転の効力も同日に生じたものと解される。なお、登記については右契約書どおりの履行はなされなかつたけれども、本件土地の引き渡しは、右契約書の合意に基づき昭和五〇年三月に行われ、残代金六〇〇〇万円は契約書の記載とは異なるが右契約書作成時の合意に基づき同五一年七月一七日一括支払われていることも右に見たとおりである。したがつて、本件土地の譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期は昭和四九年であると言わなければならない。
2 原告は、本件土地の売買契約は昭和四九年七月三一日に成立し、それが前記二1(5)認定のとおり変更されたが、昭和五二年二月ころ、更に変更されて本件土地を一括譲渡ではなく昭和五一年から昭和五六年までの六年間にわたる持分一部移転の分割譲渡の売買契約とされた旨主張する。なるほど、<証拠略>には右主張に沿う供述部分があるとともに、その提出にかかる四通の売買契約書(<証拠略>)及び被告提出の二通の売買契約書(<証拠略>)は右分割売買を裏付ける契約内容になつているものであるが、他方、<証拠略>によれば、右合計六通の売買契約書の作成経過については、原告が昭和五二年二月ころ田源石灰に対し、本件土地売却についての所得税納付の税務対策上の必要から一括売買でなく持分七分の一の分割売買の形にしてその旨の売買契約書を新たに作成したい旨申し入れたことから、田源石灰も原告の申し入れに協力することとし、そのころ両者合意のもとに同時に右合計六通の売買契約書が作成されたものであることが認められる。してみると、右分割売買契約は専ら原告の税務対策を目的として、相通じてなされた仮装のものというべきであるから原告の右主張は採用できない。
3 被告は、右認定の昭和四九年七月三一日付けの売買契約は原告と田源石灰との合意で破棄されたと主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。もつとも、<証拠略>によれば、田源石灰は、昭和五一年一月二〇日付の契約証書を作成したときに、同四九年七月三一日に作成し田源石灰が所持していた契約書(<証拠略>に見合うもの)を破棄したことが認められるけれども、旧契約の一部を変更して新しい契約書を作成した際に、旧い契約書を破棄したからといつて、旧契約そのものが合意解約されたといわなければならないものではないから、右事実をもつて被告の主張を基礎づけることはできない。
4 そうすると、原告の本件土地の売買による譲渡所得を昭和五一年度に計上し、それを前提としてなした被告の本件各処分には、譲渡所得の計上時期を誤つた違法があるといわねばならない。よつて、その余の点について判断するまでもなく抗弁2及び5は理由がなく、本件各処分は取消を免れない。
第三 以上の次第で本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 清水悠爾 田村洋三 宮崎万壽夫)
別紙一ないし四 <略>